ネットワークの基礎講座

イーサネット

プロトコル・スタックとイーサネット


 

 

 


皆さんがネットワークについて関心を持つとしたら、一番手元にあるイーサネットからではないだろうか。あなたの使っているPCからの情報はまずこのイーサネット・ケーブルを通って他のPCやインターネットに流れていく。イーサネットは長い歴史を持ち、ネットワークの基本的な要素ではあるが、今も発展を続け、単にLANの高速化だけでなく、ブロードバンド社会にむけた光アクセス(皆さんのオフィスや家庭から局までの光ネットワーク)の手段(EPON: Ethernet Passive Optical Network)として注目されているのである。

 

イーサネットはもともとXerox社の研究所が開発したものであり、”Ethernet”という名前はXerox社の商標登録だった。その後IEEE(電気・電子学会)がLANの標準化を担当することになり19802月に発足した802委員会が作業した。イーサネットは802.3が物理層を、802.2がデータ・リンク層をまとめている。ただ802.3規格が出来る前に存在した所謂イーサネット(Ethernet 2あるいは単にEthernet規格とも呼ぶ)規格もあり、両者は微妙に異なるのでデバイスやドライバを開発する人は注意が必要だが、我々のようにこれを利用する立場の人たちはそこまで詳細に知る必要は通常無い。

 

このように「イーサネット」と我々が言うときは、それには物理層とデータ・リンク層が含まれている。とたんに「層」という言葉が出てきたので、まずコンピュータ間のデータ転送における階層について説明しなければならない。一般にこれの説明の為に良く参照されるのがOSI参照モデルである。OSIは国際的に標準化しようとしたプロトコルであるが、残念ながら米国を中心としたデファクト・スタンダードのTCP/IPに駆逐され、いまはOSIといえばこの階層モデルが引き合いにだされるだけである。

 

7層からなるOSI参照モデルは、上からつぎのようになっている。

 

7: アプリケーション(Applications)

この層はアプリケーション・ソフトウエアが乗る。ファイル・アクセスと転送、仮想マシン・エミュレーション、プロセス間通信などの処理がここで取扱われる。

 

6: プレゼンテーション(Presentation)

データ表現の相違がこの層で処理される。例えば、UNIXスタイルの行終端(CRのみ)をMS-DOSスタイル(CRLF)に変換したり、EBCIDIC符号をASCII文字セットに変換したりする処理がこれに該当する。

 

5: セッション(Session)

ネットワークを介したアプリケーション間の通信の制御がこの層で実施される。パケットのシーケンスの検査や、双方向通信の処理などがこの層で処理される。

 

4: トランスポート(Transport)

この層の下位3層が正しく実行しており、透過的(トランスペアラント)で論理的なデータの流れがエンド・ユーザとネットワーク・サービス間でとれていることを確たるものとする。もっと柔らかい表現をすれば、等価的で正しいデータ・ストリームが得られるように、下位3層で処理できなかった問題を解決する。具体的にはパケットの順序制御などが相当する。更にはひとつのネットワーク接続に対し複数のトランスポート接続を行う効率的な転送機能もここで持たせる。

 

3: ネットワーク(Network)

この層では、ある端末から別の端末へのパケットが所定の時間内に到達するようにする。ルーティング(日本語では適切な言葉が無いので、経路設定とか、転送と中継とでもしようか)やフロー制御がここで行われる。物理的な網の部分を無視すればこの層がOSIモデルの最下位層である。具体的な機能としてはネットワーク・アドレス制御、サービス品質制御、データ転送制御などがこれに含まれる。

 

2: データ・リンク(Data Link)

この層では、回線にデータを乗せたり、逆に回線からデータを取り出し、誤りの検出と訂正及び再送を行う。この層は通常2つのサブ・レイヤに分割され、上半分の誤りの検出を行う論理リンク制御(LLC: Logical Link Control)と、下半分の回線とのデータの受け渡しをするメディア・アクセス制御(MAC: Medium Access Control)とからなる。

 

1: 物理(Physical)

これは金物の層である。ここではケーブル、コネクタ、信号などの規格が相互接続のため規定される。

 

イーサネットの規格には、データ・リンク層に係わる部分と物理層に係わる部分が記載されている。ここではデータ・リンク層に係わる部分から説明することにする。

 

なおOSI参照モデルを使ってシステムA上のアプリケーションとシステムB上のアプリケーションとの間で情報を交換しようとすると次のようなスタックを経由することになる。一般に中継ノードはネットワーク層までを処理すれば良い。この図では中継ノードがひとつだけだが、通常多くのノードを経由する。

 


 


インターネットで使われているTCP/IPの世界はこれより簡略化されている。即ちプレゼンテーション層とセッション層は存在せず、それらの機能はアプリケーションに任されている。従ってトランスポート(TCP)層、ネットワーク(IP)層、データリンク層(MAC)、それに物理層が基本となっている。ここに:

TCPTransport Control Protocol

IPInternet Protocol

MACMedia Access and Control

の略でインターネットの世界での呼び名である。

 

プロトコルとは対向するピア間の同じ層間の通信の規約のことである。特にインターネットの世界ではTCPIPが共通の基盤であり、これがTCP/IPと呼ばれる所以である。

 

 

 

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